『Personal Folklore この一見矛盾したような言葉は、現代において特定の土地や集団に属さない個人が、その心身の活動の中で育み得るかもしれない文化の醸成の可能性のための造語だ』市川陽子
今回の展覧会「Personal folklore」というタイトルに込められた市川の想いには切実なものを感じる。かねてから芭蕉布などに代表されるプリミティブな手仕事、民族学に興味を持ち、実際にそれらに触れようとしながら暮らし、ものづくりを続ける彼女の中で、人が手でものをつくることと、自然風土、人の営みの関わりについて、重なってきたものがある。
平面的な革を縫い合わせて立体にした箱「Mimic」、革のハギレを紐状にして縒りをかけ、からげて作られた籠のような新作シリーズ「Spiral pot」。作品は、道具としての美しさに留まることなく、呼吸する胎のように、どこか生々しさを持ってわたしたちを惹きつける。素材の 変容そのものへの思考、縫い繕う・織る・編むという仕草と創意工夫の痕跡に市川の眼差しが滲み出て、彼女にしか作り出すことができない独自の魅力を醸している。オリジンを見つめ、技法や素材の本質を縦軸に、自身のルーツを横軸にして等身大の新たな布を織り上げていくような市川陽子の作品は、現代にあって稀有な存在であると思う。