陶芸家・稲富淳輔は、大阪の住宅地の一角にある彼のスタジオで、日々の生活の合間に土を積み上げ、白化粧をして焼成する行為を繰り返す。作品は静かなマチエールと柔らかなフォルムを持ち、温かみや優しさという言葉で語られることも多いが、その白化粧の下に隠された、満たされないうつわへの熱量にこそ注目したい。
稲富の視線の先にあるものは、常に彼が主題としてきた「美しさへの証明」のための実践です。その制作は、人が一度の人生の中で美しさを証明することの不可能性と、それができればという可能性の矛盾によって成立し、白い化粧土に覆われた作品は、有-無、生-死の両義的な印象を持っています。
稲富の作品は、彫刻的で在りながら、陶という素材に紐づく様々な文脈を内包することで鑑賞者の情感を招き入れる「うつわ」として存在します。自身の生きる時間軸を超え、美という理への憧憬を抱きながら実直に積み上げられた土は、機能や意味性を超え、存在そのものへの赦しを内包し、人間らしい表情を持って私たちの心に響きます。
本展では、円筒によるインスタレーション、陶と石膏による大小の壁面作品を中心に展覧いたします。
11月4日(土)13:30〜14:30にはギャラリーにて、アーティストによるギャラリートークを開催致します。