《My daughter》 2025|Oil on canvas|318×410mm
アンリ・ベルクソン(Henri Bergson, 1859–1941)は「記憶は過去そのものではなく、過去が現在に入り込む運動だ」と述べている。つまり、記憶はただ時間をさかのぼることではなく、過去が今この瞬間にどのように息づいてるのかという働きの意味をもつ。
記憶とは、形を持たない家のようなものなのかもしれない。ある時間の流れのなかで人の記憶は静かに蓄積される。人がその場を去ってもなお、言葉にならなかった微かなささやきや、伝えられることのなかった誰かの思いが目に見えない層となって折り重なっていく。私がポートレートを通して見つめていたい場所とは、特定の個人的な物語ではない。それは詩とも沈黙とも呼べない、とても小さな、しかし確かな物語である。/ 吉田紳平
GALLERY crossing(岐阜・美濃加茂)は2026年1月10日(土)から1月25日(日)まで、吉田紳平による「A House for a House(家のための家)」を開催いたします。本展は吉田紳平の当ギャラリーでの3度目の個展となり、最新作のペインティング作品を展示いたします。
近年、吉田の作品は色鉛筆から油彩へ画材を移し、霞のような肖像は以前よりも具体性を帯びたように見える。しかし、同じモチーフが繰り返し描かれることで、登場人物は決して個性を示すことなく、むしろ一層朧げで掴みどころのない虚構性を保ち続けている。画面の明暗が生むドラマチックな効果は時間と記憶を感じさせ、詩的な世界を立ち上がらせながら鑑賞者の情緒に静かに語りかける。どこか見覚えのあるようなその画面は、長い絵画の歴史の中で幾千も描かれてきたポートレートというものの断片が、吉田の画面にそっと重なり漂っているかのようだ。今回の個展では、「家」という言葉が印象的に響く。GALLERY crossingは、過去の家族の記憶を残す家屋にホワイトキューブが入り込み、混ざり合うように設計された空間。まさにベルクソンが論じる「記憶が現在に入り込む運動」が起きる場で、家というメタファーが作品と空間の両方に反映される時、どのような物語が生じるのか。
⚫︎関連イベントとして、1月11日(日)17:00より、鈴木俊晴氏(豊田市美術館学芸員)をゲストにお招きし、作家との対談を開催します。
《A boy》 2025|Oil on canvas|223×275mm
《Hand》 2025|Oil on canvas|223×275mm
《Fade》 2025|Oil on canvas|223×275mm
《And even me》 2025|Oil on canvas|410×410mm