この度GALLERY crossingは、市川陽子の新作個展「MIMIC」を開催致します。本展は当ギャラリーにおける2年ぶり、3度目の個展となります。
市川 陽子(いちかわ・ようこ)は1985年大阪生まれ、京都市立芸術大学工芸科漆工専攻修了。独立後は京都で制作活動を行い、現在は滋賀県高島市へとその拠点を移し制作を行っています。大学在学中より「漆皮(しっぴ)」という技法への興味を深め、研究と実験を積み重ねることで独自の表現へと昇華させてきました。市川の制作する漆皮箱は、正倉院宝物に残された8世紀(奈良時代)の『漆皮箱』に起点を持ちますが、その制作方法は元来の手法にとらわれない独自の手法です。動物の皮で器をつくり、漆を塗って硬化させる「漆皮」は、飛鳥時代からの歴史を持ちながらも一度は歴史の中で途絶えた工芸技法。市川は自ら紐解いた漆皮の持つ歴史を背景に、自らのものづくりのルーツである、縫い・繕うという行為と、彼女の持つ死生観を重ねて制作を行っています。かつて立体的な命を包んでいた皮膜を、再び縫い合わせ、漆という植物の樹液を染み込ませ、塗り重ね、硬化させることで、何かを内包する新たな存在として再構築することをコンセプトとし、漆という塗膜の向こうに透けて見える皮そのものの、トランスフォームの過程こそが彼女の作品の核です。
本展ではこれまで制作を重ねてきた漆箱を、改めて「Mimic(ミミック)」 と題し、波打つような曲面を持つ有機的な箱、パッチワークを施した箱、小動物を想わせる脚付きの小箱など、バリエーションに富んだ一点ものの作品群を発表します。Mimicとは擬態する動物の意味を持ち、ゲームに登場する宝箱のモンスターの名称としても知られています。箱という存在は古来より人を魅了し『開けてはいけない箱』の登場する昔ばなしや妖怪伝承は日本各地に溢れています。漆皮という技法への工芸的興味を超えて現代的解釈が加えられた作品は、用の美を持ちながら、箱特有の秘匿感と、かつて生き物であったものの気配をまとい、擬態する妖怪やモンスターさながらの抗えない魅力で鑑賞者を誘うでしょう。その他に本展では、新たに取り組む壁面作品も発表される予定です。
7月8日(土)13:30〜14:30にはギャラリーにて、アーティストによるギャラリートークを開催致します。
継ぎ接ぎし、積層されたありふれた素材や所作が
一転、見知らぬものに擬態するとき、
私たちは既知の物事の中に潜むファンタジーを認知する。
表裏を行き来し、端と端を接続する針と糸。
不足を肯定し、補う漆という液体。
発生と同時に膜であり容れ物である皮革。
それらを扱う私に連なるたくさんの人の手の跡。
市川陽子
【アーティストトーク】
「手仕事がファンタジーになる時代、工芸という表現」
日時:7月8日(土)13:30-14:30
登壇:市川 陽子
進行:黒元 実紗(GALLERY crossing)
作家による作品解説を含む、インタビュー形式のギャラリートークを開催します。市川陽子が惹かれ続ける「漆皮」とは何か、制作物の奥にある素材への眼差しや工芸のこれからへの視座について。作家の思考、作品の魅力の一端に触れていただく機会となれば幸いです。お気軽にお集まりください。