
木下 令子《comma -lesson-》2013-2022、アクリル、背紙、35.5×28cm
木下 令子の絵画は、日光による印画紙の感光、紙の日焼け、皺や折目など不可逆的な 現象を持つ支持体に対し、それらの痕跡の上にスプレーガンから拡散される霧状の アクリル絵の具を吹き付け、加筆する行為により制作されます。記憶と記録のあわい を見つめ、移ろう時間に介入し、生きる上での些末な出来事の痕跡、密やかな憂いや 愛しさをすくいとる喜びは木下の創造性の原点と言えるでしょう。画面に定着された 無数の粒子は、そのリアルな質量によって時の手触りを顕にします。テーブルの上の 葡萄に手を伸ばし、その一粒に触れる瞬間のような瑞々しさと、同時に、触れた瞬間に 砂粒のように流れ、変化し、捉えどころなく霧散するような虚無感。それは時という ものの本質を眺める体感です。
当ギャラリーで3 回目の個展となる本展では、2014 年から現在まで、約10 年間に制作 された未発表を含む旧作から、新作までを包括的に展覧します。バリエーションに 富んだ支持体、テーマへのアプローチの数々から、個々の地点での表現と、全体から 立ち現れる木下の眼差しを感じることができるでしょう。

木下 令子《mark》2014、アクリル、コットン、パネル、95×95×3cm

木下 令子《日照時間 -turn red-》2021、アクリル、印画紙、29.8×29.8cm

木下 令子《黄色の花模様》2022、アクリル、布、22.5×22.5cm

木下 令子《veil》2013-2022、アクリル、芯地、綿布、パネル、86×140×4.5cm

木下 令子《ちぎった一粒のように》2023、アクリル、綿、27.8×19×1.7cm